転生令嬢~彼が殺しにやって来る~
 思い出は誰もが持っている。
 そこには嬉しさや悲しさ、喜びも悔しさも混ざっているだろう。

 私にもある。 ……はずだ。 いや、あったはずなのだ。

 なのに寄宿学校を出てからというもの、記憶が曖昧になっていった。
 学舎で学んだ事も学友達と知り合いになった事も覚えている。
 だが、それだけなのだ。

 何かが抜けている気がするのに、大事な人がそこにいた気がするのに、まるで太陽の光が照らして見えなくしているようでわからない。

 それは私だけではなかった。
 ネヴィルも記憶が曖昧だとぼやくようになった。

『ふとすると、エマの事を忘れているのだよ』

『俺とフロタリアにとって、大事な何かが起きたような気がするのだが……』

『何だっけ……。 何を思い出そうとしたのかな』

 ネヴィルが何度もそう呟く度に、私も同じ呟きを繰り返していた。

 そして五年経った今では、思い出そうとした事実すら忘れてしまっている。
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