昼と夜の間で、僕らは手をつなぎ合う
たどり着いた昇降口。
一年三組の下駄箱前に、クラスメートの女子の姿を見つけて、わたしはバクンと心臓を鳴らした。
靴を履き替えているのは、川本さんだ。頬も髪もふんわりしていて、癒し系の女の子。
話しかけやすさで判断するなら、きっとトップクラス。
……行こう。行ける、行かなきゃ。
行く、という単語をいろんな形に変えて、自分の中に勇気をためる。
そう。わたしが立てた小さな目標のみっつめは、クラスメートに挨拶をすること。
一番言いやすい“おはよう”だけでいい。
それを自分から発することができたら、ぐっと世界が広がる気がするんだ。
……おはよう、おはよう。
自分の中で何度も唱える。けれどなかなか、踏み出すことができない。
かつての記憶が邪魔をしてくる。おはよう!と入った教室で、だれもおはようを返してくれなかったこと。
代わりに向けられたのは、軽蔑の視線。そのおそろしさが、わたしの勇気をむしり取る。
躊躇しているうちに、靴を履き替え終えてしまう川本さん。
足元に置いていたカバンを持ち上げている。早く。今、行かなきゃ。