昼と夜の間で、僕らは手をつなぎ合う
「渓谷のこと教えてくれたの、藪内(やぶうち)さんなんだ」
こんなにもちゃんと計画を立ててくれていたことに感動していると、雨夜くんが言った。
「あ、藪内さんてわかるかな」
「あっ、うん!前に話してくれたよね。夜間に通ってる、八十三歳のおじいさん!」
雨夜くんが藪内さんのことをはじめて話してくれたのは、図書室で会うようになってまだ間もないころのことだ。
『俺のクラスね、最高齢の人が八十三歳なんだ。藪内さんっていう、おじいさん』
そんな風に教えてくれて。夜間に通う人の年齢がバラバラであることは知っていたけれど、まさかそんなご高齢の方が勉強しにきているなんて……と、すごく驚いたのを覚えている。
「すごい。年齢まで覚えてくれてる」
目じりを下げて、雨夜くんが話を続ける。
「永田さんを誘う前に、どこの海がいいかって、教室でクラスメートに聞いてみてて。そしたら藪内さんが、そう遠くないところに海も緑も楽しめる場所があるって、教えてくれたんだ」
「そうなんだ……!」
「藪内さん、物知りで親切で、すごくいい人なんだよ」