昼と夜の間で、僕らは手をつなぎ合う


ずうっと昔。わたしがまだ幼くて、お父さんがまだ元気で、病院じゃなく家にいたころ。


『温美の目は、父さんの目にそっくりだなぁ』


お父さんの膝に座らせてもらいながら、そんな風に話されたことがある。


『そっくりー?』

『うん。ちょっと垂れてて、奥二重で。温美、目と鼻は父さんで、輪郭と口は母さんだな。ちょうど半分だ』


ちょうど半分。その言葉が嬉しくて、幼いわたしは首をそらして、お父さんを見上げた。

お父さんは、幸せそうに笑っていて。

お父さんの瞳の中には、はにかんだわたしがうつっていた。


『温美は可愛いな』


ほおに優しく手を添えて、お父さんが言う。


『お父さんの宝物だ』


――ミーンミンミンミン……。

耳に入ってきた、騒がしい音。

それをセミの鳴き声だと認識して、わたしは布団の上で目を覚ました。


昨夜はまったく眠りにつける気がしなかったのに、いつの間にか寝ていたみたいだ。

ゆっくり上体を起こして、不思議な感覚に目をまたたかせる。


嫌な汗はかいていない。悪夢で跳ね起きたときとは真反対の、すごく心地いい目覚めだ。

それに、なんだかとても懐かしい夢を見た気がする。

だれかが優しいまなざしで、わたしを見守ってくれていた夢。


うまく思い出せないけれど、あれは。
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