視線が絡んで、熱になる【完結】
♢♢♢

「今日からうちの部に入ってきた藍沢琴葉さんです!じゃあ、まずは琴葉さんから挨拶を!」

幹事の奏多から挨拶を求められ、適当に当たり障りのない挨拶をした。
居酒屋は会社から徒歩圏内の個人店で行われていた。五人での歓迎会だから普段もこのお店を使っていると涼が教えてくれたことを思い出した。
ビールを片手に皆乾杯をして一気に飲み干す。

「いや~歓迎会とかない限り、毎日残業ですもんね」
涼が智恵に向かって爽やかな笑みを向ける。真っ赤な唇を妖艶に開き、そうね、と軽く返事をする彼女によく欲情しないなと感心した。

智恵と視線が絡むたびに、心臓が激しく動く。女性が好きだったのでは、と勘違いしてしまうほどに。

琴葉の隣には、不破柊マネージャーが座っていた。
上司が隣など一番嫌だが仕方がない。
歓迎してもらっているのだから真ん中に座るのはしょうがないことだ。

奏多が既に顔を赤らめて
「琴葉さんって、どこ大ですか?」

と、訊く。当たり障りのない会話、安心した。パーソナルスペースに入り込むような会話は嫌いだ。
ごほん、と咳払いをして姿勢を整えた。
「H大学だよ」
「へ…」

ところが、琴葉が答える前に不破マネージャーが口を挟む。
驚き、全員の視線が彼に注がれる。

「そうだよな?」
「…はい。そうです」
「あら、同じ大学だったのね?」

智恵の声に琴葉の隣に座る柊が数回頷いて、気だるげな瞳を琴葉へ向ける。
仕事中の彼とは別人に見えた。未だに彼に視線を向けられると背筋が伸びるが、会社の中で見た彼とは雰囲気が違った。

同じ大学というのも珍しくはない。

「そうだったんですね、知らなかったです」
「学部も一緒」
「あー、そうですか」

ジョッキに残っているビールを一気に飲み干す彼の喉仏につい視線を向けてしまう。
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