視線が絡んで、熱になる【完結】
買い物に行くということらしいが、柊とならばどこへだって行きたい。
琴葉は持ってきていた濃紺のパンツにオフホワイトのシャツに着替えて慣れないメイクをした。
服装は傍からみるとオフィスカジュアルのように見えるかもしれない。
あまり服を持っていない琴葉にとってデート用の服をすぐに用意することもできなかった。
30分ほどで化粧を終えて、柊の待つリビングに行くと私服姿の彼が既にソファに座り待っていた。
慣れないメイクのせいで待たせてしまったのに柊は苛立つこともなく普段よりも優しい視線を琴葉に向ける。
仕事での彼とは全くの別人だ。

「待たせてごめんなさい」
「待ってない。それに琴葉が時間をかける分、楽しみが増える」
「…楽しみ?」
「どんどん綺麗になるお前を最初に見られるんだから」
「……」

柊はそんな顔を伏せたくなるようなセリフを顔色一つ変えずにサラリという。
琴葉は何と返していいのかわからずに困ったように視線を巡らせた。

「今日は琴葉の買い物に行く」
「はい、ありがとうございます…でも付き合わせるのは…」
「何言ってるんだ。俺と選ぶんだよ。付き合わせるとかじゃない。デートなんだから」

琴葉は、あっと小さな声を漏らす。そうだ、柊は女性用の下着売り場に平気で入る鋼のメンタルを持つ男だった。
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