視線が絡んで、熱になる【完結】
二人で彼の車に乗り込む。
高そうな車だなぁ、とは思ったが車に興味のない琴葉はどの程度の値段がするのかはわかっていない。

「まずはどこへ?」
シートベルトを着用しながらそう訊くと柊は「まずはコンタクトだ」という。

「へ?」
「とりあえずコンタクトレンズを買いにいく」
「…えっと、不破さんのですか?」
「何言っているんだ。お前のだよ」
柊の言葉と同時に車が走り出した。コンタクトを購入したことは一度だけある。
大学生のころだ。琴葉の初めてを柊によって塗り替えられていくのをヒシヒシと感じながらもそれが嫌ではなかった。
ゆっくりと動く車の中で何を話したらいいのか迷っていると柊から口を開いた。

「俺はあまり人と深くかかわってこなかった」
「…はい?」
しかし、柊の話す内容はあまりにも琴葉の斜め上をいくもので、思わず精悍な横顔を凝視する。
柊はハンドルを握ったまま、続けた。

「というか面倒だった。そのくせ周りには人が集まってくる。だから人と深くかかわろうとする努力をしないで大人になった。でも社会人になって、いや、人の上に立つ立場になって他人の気持ちを慮ることがいかに大切か理解した」
「…はい」

琴葉もそうだった。突然語られた内容は普通ならば理解するのに時間がかかりそうなほど唐突でこの場には相応しくないような会話かもしれない。
しかし、琴葉にも思い当たる節がある。自分もそうだった。柊の場合は自ら関わろうとしなくても人が周りにいるようなタイプの人間だが琴葉は違う。
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