視線が絡んで、熱になる【完結】
色っぽい。

ジャケットを脱いで、腕まくりをしているワイシャツから覗く腕に浮かびあがる血管に男を感じる。
正面に座る智恵と同じくらいの色気を感じて困惑する。
欲求不満なのだろうか。そんなわけはない。だって男はもうこりごりだから。
扉側に座る奏多が廊下に顔を出して注文を取っている。その様子を見ながら、ビールジョッキに手をかけた。

「知ってるよ、お前のこと」
「…え、」
「大学時代、同じ学部じゃん。経済学部」
「…」

いい感じに酔いが回ってきたのに、一気にそれが醒めていく。
琴葉自身は不破柊のことは全く知らない。それなのに、相手は知っている。しかも“黒歴史”を。

「えー、マネージャー知ってるんですか。琴葉ちゃんのこと」

いつの間にか下の名前でしかも“ちゃん”を付けてくる馴れ馴れしさを出してくる涼のことなど気にする余裕もないほどに焦っていた。

「知ってるよ、だって…―」
「待って!」

琴葉は自身のおしぼりを彼の口へ押し当てた。
それ以降のことは覚えていない。ただ、柊がそれ以上のことは何も言わなかったのは知っている。
そのあとは、とにかく飲みまくって嫌な記憶を消すようにひたすら酒を体内に入れた。
普段はそこまで強くないアルコールを限界まで摂取すると、記憶が消えた。

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