視線が絡んで、熱になる【完結】
どう見たって辺りは人で埋め尽くされていて、人々の活気で煩いだろう。
琴葉は特段そのような感情はないが柊は嫌いなはずだ。
それなのに自分の買い物に付き合ってもらうことになり申し訳なさがこみ上げる。

「今日は楽しいよ」

弾かれたように顔を上げると柊が笑っていた。あまり見ない笑顔を今日は何度も見ることが出来ていた。

「好かない場所もお前となら楽しいと感じる」
「…わ、私もです」

恥じらいながらもそう言った。
彼と一緒ならばどこに行くのも楽しいし、既に一人だった自分を思い出せない。本当に自分はどうしてしまったのだろう。
柊と一緒に賑やかな店内に入っていく。柊と会話をする際、身長の高い彼を見上げて喋るからどうしても首が痛む。
もう少し高いヒールの靴を購入したいと思った。

柊は琴葉に何かを話す際、わざわざ屈むような体勢になって耳を近づけるからそれもまた、腰に悪いような気がする。それでも、そういった細かな気遣いに胸が高鳴る。
柊は確かにあまり他人と深く関わろうとはしなさそうだ。しかし、距離が縮まるとそれが180度変化すると思った。親しい人には、情が深いような気がする。
辺りを見渡さなくても周りにはカップルばかりで自分たちも同様に見られているのでは、と思うと嬉しいような、恥ずかしいような。
名前は知っているが利用したことのないショップの前で立ち止まる。

花柄のワンピースや、ブラウス、スカートどれも素敵で女性らしさのあるブランドは琴葉の目にも留まった。
するとすぐに店員が声を掛けてくる。
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