視線が絡んで、熱になる【完結】
そろそろ帰る時間帯になった。しかし、琴葉は今日も柊と一緒に過ごしたいと思っていた。
何かあれば言ってほしい、そう柊は言っていたが、やはり直接口にするのは憚られる。

そして、もう一つ。
それは、手を繋ぎたかった。柊が手を繋ぐような人ではないことは理解していたから、これもまた、口に出すことはできなかった。

「どうかしたのか」
「…いえ」
「何かあったら、言え」
「……」

数秒の沈黙の後、琴葉は視線を下げたまま蚊の鳴くような声で言った。
「手を繋いでもらってもよろしいでしょうか」
柊の足が止まる。琴葉もそれにつられるように足を止めた。横にいる柊を恐る恐る見上げる。何度見ても怜悧なその顔が心の中をかき乱す。
「もちろんだ」
そう言って、すっと琴葉の前に手を差し出す。顔を真っ赤にしてあたふたしながら柊の手に自分のそれを重ねた。

「あ、あ、あ、汗が!出ていたら申し訳ないです」
「別に気にしない」
「そうですか」

手を繋ぐ、たったそれだけで変な汗が出てくる。室内で空調も効いているはずなのに、どうしてそうなっているのかわからない。
脈打つ心臓の音が彼にまで届いているような気がする。しかし、それ以上に柊と手を繋げたことに琴葉は喜びを感じていた。本人に伝えて良かった。
車に戻るまで終始緊張で彼と目を合わせることはできなかったが満足していた。
< 116 / 190 >

この作品をシェア

pagetop