視線が絡んで、熱になる【完結】
…―…


車内では、どこへ向かっているのか聞くことが出来なかった。
もう少しでさようならをしてしまうのが寂しい。
出来れば、一緒にいたい。しかしそれを柊が同じように思っていてくれるとは限らない。
恋というのは本当に難しいものだと琴葉は思っていた。


「今日も俺の家でいいのか」
「え…あ、はい!もちろんです」

柊が前方を見ながらそう訊く。嬉しくてシートベルトを両手で握りながら柊に顔を向ける。
もちろん運転中だから琴葉を見ることはないが、柊の横顔もどこか嬉しそうだ。

「あの、よかったらスーパーに寄っていただけませんか」
「何か欲しいのか」
「はい。不破さんの自宅で今日のお礼に何か作ろうかなと」
「それは嬉しい。ありがとう」

手料理に自信があるわけではない。
ただ、彼に感謝の気持ちを伝えたかった。口だけではなく、しっかりと相手に伝わるように。
柊にお願いしてスーパーへ行き、食材を購入した。
柊の自宅へ到着すると、早速料理にとりかかった。

「エプロンでも買っておくか」
「え…いいんですか」
「ん、俺が見たい」
「……」

柊の言葉に熱を持った頬を隠すように背を向けてキッチンに立つ。
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