視線が絡んで、熱になる【完結】
今回は向こうが居酒屋を予約してくれていたようで、(いつもならば逆のようだ)会社最寄り駅から二駅ほど移動したところから徒歩10分ほどの場所にあった。
ちょうど帰宅ラッシュの時間と被っているから電車内も駅も混みあっていた。
涼と会話をしながら、居酒屋に到着した。
しかし琴葉は「ここだよ」といった涼の声で足を止めると同時に想像していた“居酒屋”ではなかったから小さな声を漏らしていた。そこは明らかに寿司屋だった。
重厚感のある門構えに入る前から高そうな店だと直感でわかる。

回らない寿司屋など人生で一度しか行ったことがないしその時も大学合格祝いに両親に連れてきてもらっていたから、自ら進んで利用したことはなかった。
今だってクライアントとの飲み会として参加している。成人しているし25歳だがまだ敷居が高いと実感した。

緊張した面持ちのまま、中に入るとすぐに上品な年配の女性が目尻の皺をより一層深くして笑う。

「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか?」
「そうです」

隣の涼がすぐに名前を言うと奥の個室へと案内される。
カウンターの席は一杯で、二人組のサラリーマンが既に顔を赤くして「大将!」と上機嫌に呼んでいる。
奥の座敷へ通される。
まだ他の人は来ていないようで涼と一緒に襖側に座った。

「ここ、高いんじゃないんですか」
「そうだね~一人一万五千円から二万?くらいかな」
「え?!これって割り勘ですかね」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。うちの経費で落とすから」
「そうですか」

ほっとしたのも束の間、襖の開く音とともに「どうも!」という男性の陽気な声が聞こえ顔を上げる。
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