視線が絡んで、熱になる【完結】
琴葉は昨日のことを思い出そうと必死に思考を巡らせるものの、記憶が抜けている。
彼のことは全く知らない。昨日初めて会った。それなのに、どうしてあんなに馴れ馴れしいのだろうか、と思った。
シャワーを終え、使っていないのではないかと思うほど綺麗な洗面台で髪を乾かしバスタオルで体を隠しながらリビングに行く。
…昨日着ていたスーツはどこだろう。
緊張した面持ちのまま、リビングに行くと既にスーツに着替えた柊を目で捉える。
先ほどと同様、アンニュイな視線を巡らせて、「スーツは寝室」という。
はい、と答えてそそくさと寝室へ行くと丁寧にハンガーにかかったそれを見つけすぐに着替えた。
心臓は未だにバクバクと物凄い振動を与え続けている。
上司とこのような関係になるなんて想定外だ。しかも覚えていないなど言語道断だ。
頭を抱えながらリビングに行くと彼はコーヒーを優雅に飲みながらタブレットを操作していた。
ニュースなどをチェックしているのだろうか。
恐る恐る彼に声を掛けた。
「すみません…シャワーありがとうございました」
「あー、いいよ。それより、コーヒー飲む?」
「いえ、結構です。とりあえず出社します」
「ふぅん、そう」
やはり社内での彼とは雰囲気が違う。もちろん、仕事が出来そうだなとかイケメンだなとか、そういうイメージはそのままだが、纏っているものが違うと感じた。
昨日、社内で見た彼はオーラが怖いと感じるほど彼の放つすべてが鋭かった。
彼に睨まれたら、“蛇に睨まれた蛙”状態になりそうだ。
柊が立ち上がると琴葉の体は自然に後ずさる。
聞きたいことはたくさんあるのに、それよりもこの場を離れたい思いの方が大きい。
「なかったことには、しない」
「はい?」
「だから、なかったことにするわけないだろ」
無言のまま唖然とする私を見て余裕そうに口元に弧を描く。それは妖しく、不敵な笑みだった。
「俺は知ってるよ。お前のこと」
「知ってる?」
「そう。大学の後輩だったし」
そんなはずはない。学部は一緒とはいえ、いったい何人の学生が在籍していると思っているのだろう。学年だって違う。
大学時代もほとんど“地味”で目立たずに過ごしていた。
彼のことは全く知らない。昨日初めて会った。それなのに、どうしてあんなに馴れ馴れしいのだろうか、と思った。
シャワーを終え、使っていないのではないかと思うほど綺麗な洗面台で髪を乾かしバスタオルで体を隠しながらリビングに行く。
…昨日着ていたスーツはどこだろう。
緊張した面持ちのまま、リビングに行くと既にスーツに着替えた柊を目で捉える。
先ほどと同様、アンニュイな視線を巡らせて、「スーツは寝室」という。
はい、と答えてそそくさと寝室へ行くと丁寧にハンガーにかかったそれを見つけすぐに着替えた。
心臓は未だにバクバクと物凄い振動を与え続けている。
上司とこのような関係になるなんて想定外だ。しかも覚えていないなど言語道断だ。
頭を抱えながらリビングに行くと彼はコーヒーを優雅に飲みながらタブレットを操作していた。
ニュースなどをチェックしているのだろうか。
恐る恐る彼に声を掛けた。
「すみません…シャワーありがとうございました」
「あー、いいよ。それより、コーヒー飲む?」
「いえ、結構です。とりあえず出社します」
「ふぅん、そう」
やはり社内での彼とは雰囲気が違う。もちろん、仕事が出来そうだなとかイケメンだなとか、そういうイメージはそのままだが、纏っているものが違うと感じた。
昨日、社内で見た彼はオーラが怖いと感じるほど彼の放つすべてが鋭かった。
彼に睨まれたら、“蛇に睨まれた蛙”状態になりそうだ。
柊が立ち上がると琴葉の体は自然に後ずさる。
聞きたいことはたくさんあるのに、それよりもこの場を離れたい思いの方が大きい。
「なかったことには、しない」
「はい?」
「だから、なかったことにするわけないだろ」
無言のまま唖然とする私を見て余裕そうに口元に弧を描く。それは妖しく、不敵な笑みだった。
「俺は知ってるよ。お前のこと」
「知ってる?」
「そう。大学の後輩だったし」
そんなはずはない。学部は一緒とはいえ、いったい何人の学生が在籍していると思っているのだろう。学年だって違う。
大学時代もほとんど“地味”で目立たずに過ごしていた。