視線が絡んで、熱になる【完結】
「あー、琴葉ちゃん、一人は危ないよね?どうする?」
「大丈夫です。帰れます」
「いい。俺が送る、というか一緒に帰る。今日はお前の家に泊まるといっただろう」
「え、」
「…不破さん!」

一緒に帰る、といった柊に涼はひどく吃驚した様子で眉根を寄せどういうこと?と訊いてくる。
全て知っているのでは、と思っていたが“一緒に帰る”“泊まる”などそこまでの関係性だとは知らないようだ。
美幸は絶望した顔をしていて、そのうち無言できゅっと口を真一文字に結んで踵を鳴らし駅へ向かって帰っていった。
一応は取引先であるわけだから、大丈夫なのかと心配になる。

「行くぞ。新木も気を付けて帰れよ」
「はい…あの」
「なんだ」
「いえ、何でもないです。じゃあ、お疲れ様でした」

何か言いたそうに唇を開けたがすぐにそれは閉じられた。そして何も聞かずに帰っていく。
その背中を見つめながら、気づくと柊に手首を掴まれている。
夜は涼しく、熱を持つ頬をひんやりと冷たい外気で熱を冷ます。

「歩けるか」
「はい」

タクシーを拾って、琴葉の家に向かって走り出す車内で窓の外を見ながら考えていた。自分はどうしたいのか、と。
このまま流されるように柊と関係を続けていてもいいのか、と。以前ならばそれで十分だった。満足だった。
それなのに…―。

「気分はどうだ。具合悪くないか」
「大丈夫です」

自宅に到着するまで、何度か同じような質問をされる。でもどれも一言二言返してすぐに沈黙が訪れる。
それを繰り返しているうちに、自宅へ到着した。
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