視線が絡んで、熱になる【完結】
人を自宅に招いたことは社会人になって初めてだ。
少しずつ緊張の波が大きくなってくるのがわかる。柊の自宅と比べると、1LDKで広さもない家だがベッドはセミダブルサイズだから寝るには何とかなりそうだ。
(…一緒に寝たら、セックスするのかな)
セフレというワードがどうしても頭の中で繰り返される。
「ここが琴葉の家か」
ぼそっと独り言のように放たれた言葉に頷き、マンション内のエレベーターに乗る。
エレベーターを降りると、自分の部屋の前に立ち鞄から鍵を取り出す。

「どうぞ…ちょっと片づけますね」

玄関でそう伝えて、柊をリビングへ通す。そこまで物に囲まれるのが好きではないから多分他の人よりも簡素な部屋だと思う。
洗って乾かしていた食器などを食器棚へ戻しながら、飲み物を用意する。
お互い飲みに行っていたから、お茶がいいと思い電気ケトルでお湯を沸かす。
柊は高そうなジャケットを脱いでソファに腰を下ろす。

「あ、ジャケット…皺になるといけないから」

柊のそれをさっと手にして寝室へ向かった。ハンガーにそれを掛ける。
すると、背後から気配を感じ振り返ろうとする間もなく伸びてきた腕に体を拘束される。
「柊さん…?」
「視線が合わない」
「へ?」
「さっきからずっと避けられてる気がするのは気のせいか?」
「…」

それは、と言って口を噤む。否定しようにも事実だった。視線が絡んでもすぐに逸らしてしまうのは、今の琴葉の心情を表しているといっても過言ではない。
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