視線が絡んで、熱になる【完結】
にこっと笑い、「こちらです」と言って紙袋から理道の新ブランド“凛”の商品が白い長机の上に並べられる。
口紅とアイシャドウ、それからパウダーファンデーションの見本だった。
実際に目で見ると、琴葉の口からは感嘆の声が漏れるほど素敵だった。
赤みブラウンのパッケージは高級感をしっかり押し出している。
涼は仕事用の笑みを添えて「素敵な商品ですね」といった。

「どうぞ、触ってみてもいいですよ」
「いいのですか」

目を輝かせながら、それを手に取る。重厚感のある口紅は発売したらすぐに購入したいほどだ。

「最近、藍沢さん変わりましたよね。びっくりしてます」
「そうですか」
「あ、もちろんいい意味です。女性らしさというか…輝いているように見えます。理道の商品も本当に好きなんだなぁって伝わってきます」
「…はい、好きなんです。理道の新ブランドの広告に携われて幸せです」
本心だった。

黒歴史だった自分の過去。
それでも理道のあの広告を見た瞬間の胸の高鳴りは忘れられなかった。あのような広告を作りたい、いつしか抱いていた感情をこうやってメーカーと一緒に自分の手で形に出来る、それが幸せだった。
営業は向いていないかもしれない。でもそれ以上にあの熱い思いを形にしたい。
西田は朗らかに笑ってよろしくお願いいたします、ともう一度言った。

「それで、今回はメインの広告のデザインについて、いくつか案を持ってきています。百貨店での販売なのでパンフレット等にも力を入れていきたいので」

涼がそう言ってノートパソコンを西田と勝木の正面になるように見せる。
赤みブラウンの高級パッケージのそれらを表すために、制作部と何度もやり取りをした。
理道からもいくつか要望があったため、それらを加味して10パターンほど用意してきた。
西田も勝木も真剣にそれを見ていた。

「あとでメールで送りますが、今見ていただき、だいたいどいう感じがいいか言ってもらえれば次回までにまた練り直せますし」
「ありがとうございます!どれもいいですね。社内で他の部署とも話し合ってみますが…1番なんかとても素敵です。高級感もありながら親しみやすさも感じます」
「そうですか、ありがとうございます。確かに制作部の方もこれが最有力候補ですね」


理道との打ち合わせは二時間弱で終わった。
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