視線が絡んで、熱になる【完結】
♢♢♢

「はいはーい、よろしくでーす」
初めての夜の立ち会いに緊張の面持ちでソワソワしていると、そんな琴葉とは対照的な軽い声が隣で鼓膜を揺らす。
涼はすぐに会社用の携帯を切るとジャケットのポケットにそれをしまう。

「もうすぐ来るってさ」
「はい」
「それにしても、こんな夜からって勘弁してほしいよね」
「そうですね。あの、営業してると芸能人とか女優さんとかに会えたりするんですか」
「あー、いやそんなにないよ。テレビCM作成の時に見ることはあるけどね。本当広告業界って華やかに見えてめちゃくちゃ体力必要だし大変な仕事だよ。給料が良くないとやってられない」

息を吐くように愚痴を溢す涼にそうですね、と返した。

「理道に今日カンプ(デザイン)持って行ったでしょ?あれもちゃんと向こうがどういうイメージで広告にしたいのか汲み取らないと大変なことになるからね。俺なんてその場で怒鳴られて帰れって言われたこと何回もあるよ」
「…本当ですか」
「マジだよ。目の前でデザイン案破かれるなんていうこともあるし。ま、そういう世界だよ」

21時とはいえ、辺りはまだギラギラと人工的なあかりが主張していて夜空を見上げても星が見えにくい。

結局作業の立ち会いは23時を過ぎてようやく終えた。
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