視線が絡んで、熱になる【完結】
「一人で帰れるの?」
「もちろんですよ。何歳だと思ってるんですか?」
「いやいや、だってもう0時になるからさ」

琴葉が帰ろうとすると涼が子供を心配するような親の顔をしてそう言った。

(確かに女性が夜遅くに一人で帰宅するのは心配するのかもしれない…)

そうは思ったけど、タクシーを拾えば何とかなる。
その旨を伝えると、「じゃあ、タクシーで帰るのをちゃんと見届けるよ」というので目の前でタクシーを拾った。

「お疲れさまでした」
「うん、お疲れ!」

ドアが閉まると同時に出発する車内で、行き先を訊かれて言葉を詰まらせた。
携帯電話を確認すると柊からいくつかメッセージが入っている。

―大丈夫か?迎えに行くこともできるが
―終わったら連絡してほしい

涼もそうだが、柊も帰宅が遅くなる琴葉を心配しているようで頬が緩む。
やはり、彼のことが好きだった。多分、柊からは振られることになるだろうがちゃんと向き合おう。
琴葉は柊の自宅の行き先を運転手へ伝えた。
今朝もプライベートで会っているのに、緊張しながら彼の家のドアの前にいた。
合鍵を渡してもらったから、インターホンを押す必要もないのだが、一応それを押した。
すると、すぐに鍵が開く音がして柊が顔を出した。

「えっと、こんな時間にすみません」
「いいんだ。俺が呼んだんだから。それより一人で帰ってきたのか?」

そう訊きながら、琴葉を柊の家に通す。
ずっと立ちっぱなしで疲れた足がパンプスから解放されるとともに息が漏れる。
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