視線が絡んで、熱になる【完結】
心音が煩いくらいに全身に響く。
食いしばっていないと涙が溢れそうだった。
バスローブ姿の琴葉は、小さな声で「はい」と返した。

「まず、申し訳なかった」
「いえ…それは私の方です」

柊は、眉尻を下げて今朝と同じように困っているような顔をしている。
“申し訳ない”
それは、気を遣わせて申し訳ないということだろう。今から琴葉を振るということをちらつかせているように思う。

「ごめんなさい。勘違いしていたわけじゃないんです。でも…つい、出てしまって、私は…―」

ぽろっと涙が頬を伝った瞬間に、琴葉の視界が大きく揺れた。
吃驚の声が出るが柊の腕が強い力で琴葉を抱きしめる。

「柊さん?!」
「申し訳ない。先に言わせる気はなかった」
「先に?」

耳元で柊の切ない声が鼓膜を揺らす。どうして抱きしめられているのかわからないが、柊の琴葉を抱きしめる力は弱まるどころがどんどん強くなっていく。
それを体で感じながら涙があふれる。

「琴葉の視線が俺に向くことなんかないと思っていた。だから強引にこういう関係にしたが、よく考えるとお前を不安にさせるだけだった。俺は、ずっと昔から琴葉の視界に入りたかった」
「え?視界に?…」

柊の発する一つ一つのワードを何とか口に出すが全貌が見えてこない。

「そうだ。大学生のころから、琴葉の視界に入りたかった」

―ずっと、好きだった
―付き合ってほしい

そう言って柊が琴葉からゆっくりと体を離した。視線が絡むと、柊が泣いている琴葉のそれを無骨な指でそっと拭う。

「つ、付き合う?好き?」

振られる覚悟で今日、この場にいたから柊の告白に口を半開きにして驚いていた。
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