視線が絡んで、熱になる【完結】
春樹も同様に気まずそうに目を逸らし何とか空笑いをしていた。
名刺には株式会社シャインプロモーション推進部 風野春樹と書かれていた。
間違いなく元カレの春樹だ。

彼は大学時代の面影を残した爽やかな男性で、クールビズということもありネクタイやジャケットは羽織っていないがそれでもちゃんとしているように見えるし若いのに仕事を任せてもいいと思えるような印象を与えた。

涼がイケメンだ、と事前に琴葉に伝えていたことを思い出す。
確かに180センチはある身長に長い手足、モデル体型なのは一目瞭然だ。かつ、爽やかさが滲み出る笑い方は誰もが素敵だと思うだろう。
しかし、琴葉にとって彼は“黒歴史”だ。私情を仕事に挟むなど許されないことはわかっている。
3人でエレベーターに乗って春樹が12階のボタンを押した。

「二人は顔見知りですか?」
涼が無言の春樹に問う。
「あー、大学が一緒でした」
「そうなんですね」

それ以上を訊くな、という春樹の圧を感じたのか涼はそれ以上は何も聞かなかった。しかし、勘のいい涼のことだ。すぐにわかっただろう。
“大学が一緒”なだけでこうも気まずい雰囲気が漂っているのだから。

案内された会議室は前回と違う場所だった。
今日はあいさつ程度ということだが、早くこの場を去りたかった。
顔合わせというのは、逆に言うと業務上関係のない話題も出てきやすいし、だったら打ち合わせの方が良かったと思い更に肩を落とす。
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