視線が絡んで、熱になる【完結】
「どうぞ、こちらに」

春樹に促されるように涼と二人で隣り合うようにして椅子に座る。
正面に春樹が腰かけた。

「今日は本当に暑いですね。早く秋になってほしいですよ、本当に」
「そうですね。今年は特に暑い気がします。去年も同じことを言っていたかもしれませんけど」

涼のお陰で会話が続く。こういう時、彼は周りの雰囲気を一気に変えるほどに空気が読めるしコミュニケーション能力がある。見習いたいと常々思う。

「前回は僕が欠席してしまって…申し訳ないです。急な出張で」
「いえいえ。CMの女優さん変更の話でしたから。あれ、前回の女優さんは結構評判もいいですけど契約満了で他の人に変更ですか?」
「そうです。ここだけの話、ではあるんですが…実は今度結婚するらしいんですよ」
「え?!そうなんですか!あぁ、だから変わるんだ」
「そうです。まぁ別にスキャンダルでも何でもないのでいいんですけど。同じ事務所の後輩の女優さんに変更になります」

二人の会話を何とか表情筋を使い笑いながら訊いていた。

「えっと。改めて紹介しますね。藍沢です。今は私と一緒に仕事をしています。そのうち一人で担当するかと思います」
「改めて、藍沢です。よろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願いいたします。そうですか…じゃあ、シャインの担当は…?」
「あー、それはまだわかりません。いくつか引継ぎが完了したら任せようかとは思っていますが。藍沢はおしとやかですが、仕事はできるし真面目です。長年営業で働いていますが、営業向きですよ」
「そうですか。それなら次回からは藍沢さんにお願いしたいです」
「……はい」

涼が褒めてくれたのは嬉しいし、俄然やる気が沸いてくる。しかし、急に今後シャインを任せられるかもしれないことを知り絶望した。
いくら私情を挟まないように仕事をするとしても、元カレである春樹と仕事をすることが出来るか不安でしかない。

「すみません。トイレ借りてもいいでしょうか」
「どうぞどうぞ!この階の突き当りにあります」
「ありがとうございます」

このタイミングで涼が席を立ってしまった。
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