視線が絡んで、熱になる【完結】
「あの、もしかして…H&Kのマネージャーさんですよね?すみません。一度確かお会いしたことがあったのに忘れていました」
「いえ。私も一度しかご挨拶しておりませんし、普段の業務では関わることがないのでお互いほぼ初対面ですね。いつも弊社がお世話になっております」

丁寧なあいさつをした後、柊は笑みを消した。ちょうど店員が追加で水を二つ、テーブルに運んでくる。
女性の店員が去ろうするのを柊が制止する。

「すみません、注文いいでしょうか」

確かに値段設定の高めの店なのだろう。客層を見ても落ち着ているしそもそもこのホテル自体、高級ホテルだ。
ここで何も注文をしないというのも気が引ける。春樹の前には既にコーヒーが置かれてある。早く柊がここに来た理由を訊きたいのか春樹がソワソワしている。一方で柊は普段通りだ。

「琴葉は?コーヒーでいいのか?」
「はい、コーヒーでお願いします」
“琴葉”と呼び捨てにしたことが気になるのか、春樹のこめかみがピクリと動く。
同じ大学の先輩だと知ったら驚くだろうか。
いや、琴葉の通っていた大学は生徒数が多い。同じ大学だと言われても珍しいことではない。重要なのは、琴葉の件で春樹を殴ろうとした張本人だということだ。注文を終えて、柊が姿勢を正す。
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