視線が絡んで、熱になる【完結】
「今日は…個人的に琴葉に連絡をしたのですが、どうして琴葉の上司が?」
「今日は上司ではなく、琴葉の彼氏としてこの場にいます」
「…え、」
「春樹君、どうして呼び出したの?私たちの関係はもうとっくに終わっているし…そもそも付き合ったのだって罰ゲームだったんだよね。それなのにどうして?」

慎重に、でも聞きたかったことはしっかりと尋ねた。

「ごめん。彼氏いたんだ。てっきりいないと思って。一番は…謝りたかったんだ」
「…謝る?」
「うん。罰ゲームであんなことをしてごめん。でも、最初はそうだったんだけど付き合っていくうちに本気で琴葉のこと好きになった。だからテニスサークルの奴らには罰ゲームが発端だって言わないでくれって言ったんだけど…」
「どういう、こと?」

衝撃的な内容につい前のめりになって聞いた。
春樹はもう一度「申し訳ない」と言ってから続けた。

「本当に最低なことをしたと思ってる。あの後、ちゃんと伝えたかったけど完全に拒否られてたし俺を見ても逃げる琴葉を見てもう無理なんだって思って。徐々に綺麗になる琴葉を見て他の男に取られそうだなって思って嫌なことも言ったよね。本当にごめん」

彼の言葉は真実を語っていると思った。
本当に苦しそうにそう言った春樹の目は少し潤んでいた。

「そうだったんだ。私、あの後からトラウマで恋もしたくなかったし、化粧も同じようにトラウマになっちゃって」
「…そうだよね。ごめん」
「でも、今は違うよ。柊さんに出会って変わろうって思えたの。仕事も頑張りたいし自分磨きも頑張りたいって思えるまでになったの」
「そっか」
「だからこれからは、ちゃんと取引先として接する。今日はちょっと態度に出ちゃったよね」
「ううん、俺も動揺してた」

どういう理由であれ、罰ゲームという形で他人の気持ちを踏みにじるような行為は許されない。事実、琴葉は何年も春樹の言動のせいで前に進むことが出来なかった。
それでも、こうやって大人になって再会して謝罪されたことは一歩前に進むきっかけになったかもしれない。春樹も琴葉と同じように安堵の表情をしている。
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