視線が絡んで、熱になる【完結】
柊は顔色一つ変えずに琴葉の後ろを通りそのまま自分のデスクへ向かう。ちらりともこちらを見ない柊を横目で確認して意識しているのは琴葉だけだと悟る。

もしかしたらああいうことは彼にとって日常茶飯事なのではないか。それならば、琴葉にとっても都合がいい。

“忘れてもらう”だけだ。

しかし今朝、彼はなかったことにはしない、そうはっきりと言ってきた。
苦虫を嚙み潰したような顔をパソコン画面に向けているとトン、と肩を叩かれる。
涼が心配そうに大丈夫?と訊いてくる。これほどまでに爽やかで穏やかなイケメンはいないだろう。絵に描いたような爽やかイケメンは琴葉の目には眩しすぎる。

「大丈夫です、すみません」
「そう?今日は午後から外勤だよ!無理そうなら言ってね」
「いえ、大丈夫です。今朝メールいただいていた資料、理道のものですよね」
「そうそう。国内大手化粧品メーカーで営業利益も売上高もトップだよ。ずっとうちのクライアントなんだ。今回は理道が新たに新ブランドを立ち上げる。それにかかわることになったんだ。そこそこ大きな案件だよ」
「はい」


ペンを器用にクルクルと指で回しながらそう言った彼からは普段の穏やかさの中に垣間見れた闘争心を感じる。

理道は誰もが知る大手消費財メーカーだ。化粧品は売上構成比で言うと二割ほどを占めており重要な事業分野であることは明白だ。

「なるほど…」

理道の資料を読み進めながら、ふと大学時代のことを思い出した。
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