視線が絡んで、熱になる【完結】
『何その化粧。全然似合ってない』
『オカメインコみたいになってる。チーク?似合ってない』

それなのに、彼は否定して笑った。琴葉の化粧のやり方が違うのかもしれない。もっと練習して次は可愛いねと言ってもらえるように、そう思った。
しかし現実はそう上手くはいかなかった。彼に“本命”の彼女がいると知ったのはそのあとすぐのことだった。

どうやら、春樹が琴葉と付き合ったのは大学で浮いている琴葉をからかう目的だったようだ。つまり、サークル内の話のネタにされていただけだったのだ。
初恋は、一方通行の実るはずのない苦々しいものになった。初めてを捧げたのも、春樹だったのに。

『バカみたい、元が良くないのにいくら努力したって無駄なのに』

春樹の本命の彼女から言われた言葉が胸の奥深くに突き刺さってどうやっても取り除くことは出来ない。

綺麗になる努力を皆で嘲笑していた、それが事実だった。

一か月と少し、綺麗になるためにやってきた努力はすべて“黒歴史”として琴葉の胸の中に封じた。
二度と恋などしない、男などいらない。そう誓った。一生、一人でいい。

「おい、藍沢」
「は、はいっ…」

理道の資料を読みながら学生時代を思い出しついボーっとしてしまった琴葉の名前を呼んでいたのは柊だった。
勢いよく立ち上がり、その反動でデスクへ足をぶつける。

「これから個人面談だけどいいか?」

鋭い目線で琴葉を威圧し、大丈夫ですと答えるもその声は届いていない。
今にも食われそうなほどの圧を感じつつ、立ち上がる柊の後に続くように急いでノートとペンを持って小走りでフロアを出る。
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