視線が絡んで、熱になる【完結】
柊は振り返ることもせずにスタスタと廊下を出て、エレベーターのボタンを押す。その斜め後ろに立ち彼を窺うようにチラチラと視線を送った。
エレベーターのドアが開き、上司にボタン操作をさせるわけにはいかないと、先に入る。

そして何階の会議室か聞いてその階のボタンを押した。二人っきりのエレベーターでお互い無言だった。
他愛のない会話を振るほどの余裕など持ち合わせていない。
ドアが開き、柊の後に続くようにしてエレベーターを降りる。
七階の第一会議室は少人数用の会議室で個人面談などに使用される。ドアを開けるとすぐに照明をつけ、会議用の白いミーティングテーブルにお互いが向かい合うようにして座った。

会議室のミーティングテーブルは柊が使用すると途端、安っぽく感じる。

「じゃあ、まず30分業務上の個人面談をする。そのあとは雑談で10分、合計40分藍沢の時間をもらうことになるけど、大丈夫か?」
「あ、はい。もちろんです」

柊の言い方に首をひねってしまいそうになる。
わざわざそこまで細かく確認を取る必要性があるのだろうか。琴葉の疑問が顔に出ていたのか、すかさず柊が口を開く。

「クライアントとの打ち合わせも同じだ。相手の時間を貰って仕事をしている。遅刻したり延長するようなことはあってはならない。延長する場合は、相手の了承を得る。時間は無限じゃない、面談も同じだよ」
「…はい、わかりました」

顔を引き締めながら頷く。営業経験のない琴葉にとって柊の発する言葉一つ一つが重くのしかかる。
しかしそれはいい重みだった。成長できるきっかけにもなるそれを大事にしたいと思った。

「本題だが、」

柊はそう言ってノートパソコンを開く。姿勢を正すように座りなおして唾を呑み込む。
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