視線が絡んで、熱になる【完結】
「何故この会社を志望した?志望理由と長所、短所を」
「え、」

琴葉が眉間に皺を寄せる。当たり前だ。急に志望理由と長所と短所を話せ、などまるで就活生にでもなった気分だった。
しかし、柊の表情は変わらずに早く言え、という視線を向ける。
目をしばたたき、考えながら言葉を紡いでいく。

「広告代理店を中心に就職活動をしていました。理由は、」

ふぅ、と小さく空気を吐き出す。

「ある広告に感銘を受けたからです」
「ある広告とは?」
「H&Kで担当している理道です。理道のツバキの広告を見て…それで」

琴葉にとって全てが黒歴史ではなかった。
確かに春樹と付き合ったこと、自分が綺麗になろうと努力したことは忘れてしまいたい過去だ。
しかし、あの広告を見て手に取った化粧品は今も琴葉の家に保管してある。
使用期限もあるし、それらを使用することはないと断言できるがそれでも、捨てることはできなかった。
それはきっと、あの一瞬のときめきを忘れられないからだと思う。
いい商品が必ずしも売れるとは限らない。
それらを世に出すために、商品を売れるようにするために、広告代理店は存在する。

それに携わってみたいと思ったのだ。
柊は琴葉の話を聞き終えると頷き、キーボードをたたく。
今の質問で何が知りたいのだろう。

心でため息を溢す。昨夜一緒に寝てしまったことが夢なのではと思うほど、目の前にいる柊はただの怖い上司だった。

「次は長所と短所を」
「はい…長所は、責任感があるところです。一度任された業務は絶対に投げ出したりしません。短所は協調性に欠けるところです。ないわけではありません。でも…周りの人と一緒に何かを成し遂げる経験もありませんし、人付き合いが苦手です」

改めて言葉にして相手に伝えると何故広告代理店から内定を貰い、現在営業として配属されたのかわからなくなる。
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