視線が絡んで、熱になる【完結】
どんどん呼吸が荒くなっていくのを感じながら、必死に平静を装う。しかしそれも彼には見透かされているような気がした。
確かに春樹には本命の彼女がいて、遊ばれていただけだった。それを知っているということは、春樹と親しい人だったのだろうか。

「思い出したくない過去、か」
「だから、そう言ってるじゃないですか!私は…っ…遊ばれて惨めで、好きな人のために努力したのに…それすら周りから嘲笑われて…」

泣きそうになるのを我慢するために下唇を強く噛んだ。職場で泣くなどあってはならない。
琴葉は必死に下瞼で涙を支えた。
柊がふっと軽く笑う。

「周りから?俺はそうは思ってないけど」
「…え、何を言って…」
「俺は可愛かったと思ってる」
「か、可愛かった…?」

衝撃だった。琴葉は柊の発した言葉を諳んじて確かに今、彼の口から出た言葉だということを確認する。
春樹からも言われたことのないそのワードに胸が早鐘を打つ。
琴葉の過去を知る目の前の男は、茶化すわけでもなく、冗談でもなく、真剣にそう言った。

「昨日だって、そうだった」
「…え、え…」

立ち上がる柊に思わず琴葉も立ち上がった。そして、柊は二人の間に隔たるテーブルの横を通り、琴葉の正面に立つ。
< 27 / 190 >

この作品をシェア

pagetop