視線が絡んで、熱になる【完結】
「…あの…化粧品を、」
こんな時にどうだっていいことを口にしていた。柊の足が止まった。苛立ったように琴葉を見下ろし「何だ?」という。

「化粧品を…買いたいんです。さすがにほぼスッピンで営業活動は…」
「あぁ、そんなことか。だったら今担当してる理道の商品を買ったらいいじゃないか」
「…はい、そのつもりです」
「百貨店だったら今からでもタクシー拾えば間に合うな」
「百貨店?いえ、そんなに高いものは…だって仕事のためにちょっとだけするだけだし」

琴葉の話を無視して、柊は琴葉の手首を掴んだまま駅を抜けると道路を走るタクシーを拾う。
半ば無理やりに近い形でタクシーに乗せられる。
柊が行き先をタクシー運転手に告げ、後部座席で揺られながら目を閉じた。
過去を知る柊に対して警戒心は未だに強い。
しかしあの鋭くて力強い瞳に見つめられると動けなくなる。流されるように彼の家に行っていいのか今更悩むがもう発進してしまった車内ではどうすることもできない。

「着きましたよ」

車内ではお互い無言だった。
タクシー運転手のやけにのんびりした声で顔を上げた。
ドアが開き、先に琴葉が降りる。そのあとに支払いを終えた柊が続いて降りてくる。
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