視線が絡んで、熱になる【完結】
…―…


タクシーで柊の自宅まで向かい、到着する頃には今朝のことが嫌でも思い出されて複雑な心境だった。
腕時計を返してもらったらすぐに帰ろう。
そう思って高いマンションを見上げてからマンション内に入る。
柊に続くようにしてエレベーターに乗り込んだ。

エレベーターで二人っきりになるだけで緊張してしまうのは琴葉に男性の免疫がないからだだろう。チラチラと彼を確認する。

「お邪魔します…」

玄関に入り靴を脱ぐ。今朝は急いで家を出たから玄関周辺はあまり見ていなかったが改めて視線をやるとガラス細工の小物が置いてあったり絵画も飾ってあった。お洒落な雰囲気はリビングと同じだと感じた。
…彼女、いないのかな。
それとなく辺りを確認するが女性の影はなかった。
そんなことを確認しても仕方がないのに気になってしまうのは何故だろう。

「夕飯は?どうする?」
「いや、腕時計を…」

記憶に新しいリビングルームで柊がネクタイを緩めながらそう訊くが琴葉としては早く目的を果たして帰りたかった。
それを目で訴えるが簡単に無視をされる。

「腹減ってないのか?」
「それは…少しだけ」
「じゃあ、出前とるか」

腕時計のことは一切触れずに、夕食の話題になりこれまた強引に出前を取る。
振り回されているような気がするのは気のせいではないはずだ。
ワイシャツのボタンを外しながらそう言った柊の視線は冷たいようで色気がある。暫し見つめられるとそれだけで心臓が早鐘を打つから琴葉はすぐに目を逸す。
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