視線が絡んで、熱になる【完結】
「よろしくお願いしますね。私、小林智恵です」
「はい、よろしくお願いします」

琴葉の目の前の席から顔を出すようにして挨拶をしてくれたのは小林智恵だ。ロングの真っ黒い髪は印象的だった。それをポニーテールでひとつに束ね、真っ赤な口紅は妖艶に映る。
同性の琴葉も一瞬息をのむほどの美しい智恵にもう一度会釈する。サバサバとした口調なのは挨拶でも伝わってくる。営業第一部は本社営業の中でもデキる人しか配属されない。

智恵ならばおそらく仕事はできるだろうが、やはり琴葉は自身がこの部へ配属されたのは何かの間違いではないかと感じた。それほど場違いなのだ。

そして、智恵の隣に座るパーマをかけた如何にもチャラそうな男性と目が合う。どう見ても琴葉よりも若い所を見ると新入社員だろうか。


「おはようございます~俺、鈴木奏多(すずき かなた)です。二年目です、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

二年目ということは、後輩になる。
三年目の壁というものを最近はよく意識するようになっていた。一年目や二年目まではそれなりに先輩社員に頼りながら仕事を覚えていくものだが、三年目になると後輩もできはじめる。

いい刺激になると感じる人もいれば、プレッシャーに感じる人も多い。
成長していないと折れてしまう人もいる。三年目に離職率が跳ね上がるのはそういう理由もあるかもしれない。


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