視線が絡んで、熱になる【完結】
リビングルームに戻ると既にホワイト大理石のダイニングテーブルの上にお寿司が置かれていた。シャワーを浴びている間に注文してくれていたようだ。
気を張っていたからお腹が空いていることを一瞬忘れていた。

「食べるぞ」
「はい」

既に化粧を落としてスッピンだ。普段化粧をすることはないくせに妙に恥ずかしく感じるのは何故だろうか。お互いテーブルを挟んで夕食を取る。
テレビの音もしない無音の空間で、上司と上司の部屋で食事をするのも苦痛だ。チラチラと彼を確認しながら寿司を口に運ぶ。結局お互い無言で夕食を終えた。


柊がシャワーを浴びている最中、ソファの上で足を抱えるようにして座る。
バスローブからはふんわりと優しい香りがした。テーブル横に無造作に置かれた化粧品の入った紙袋を見る。

…明日から、せっかく買ってもらったのだから少しだけ化粧をしよう。ただ、それはあくまでも業務上必要だからだ。

柊がバスルームから出てきたようでリビングのドアを開けて琴葉がいるのを確認する。上半身裸で平然と琴葉に近づいてくるから視線をどこに向けていいのか迷ってしまう。

「なんですか」
「いや、逃げたんじゃないかと思って」
「逃げませんよ…下着の乾燥終わってないですし」
「もう終わってるぞ。持ってきた」
「え?!」

確かに柊の片手に見たことのある下着類があって琴葉は慌てて立ち上がる。
すぐさまそれを奪い取ると顔を赤らめて「勝手に持ってこないでください!」と声を上げる。
柊は「何をそんなに怒ってるんだ」と、首を傾げて冷蔵庫へ向かう。
女性ものの下着など見慣れているのかもしれないが、その態度にイラっとしてしまう。
今日は本当に、このまま泊まってしまうのだろうか。
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