視線が絡んで、熱になる【完結】
自分などお洒落をしたって無駄だ、そう思っていた。学生時代のトラウマで今でも男が苦手だった。
それなのにこうも容易く彼を信じている自分がいた。
好きでもない男と同じベッドに寝るなど、どうかしているのに嫌じゃないのは何故だろう。触れられても嫌じゃないのは、何故だろう。

柊からはお風呂上がりのシャンプーの香りがした。琴葉も同じものを使ったから同じ匂いを纏っている。

「…キス、なら…」
「ん?」
「キス、なら…いいです…」

戦慄く唇が空気を吸うために少し開く。

と、同時に勢いよくそれが圧迫された。

一瞬何が起こったのかわからなかった。しかし驚いて微かに開いた唇から入り込んできた舌にキスをされているのだと理解する。自分からしてもいいといったくせにいざされるともっと軽いものを想像していたから吃驚した。

「…っ…んぅ、」

くぐもった声が自分の耳朶を打つと一気に羞恥心で体が熱を放つ。
キスなど何年ぶりだろう。それに春樹とだってこのような強引で熱いキスを交わしたことなどなかった。
まるで琴葉を食べるようなキスに呼吸が苦しくなっていく。上手くそれが出来ないのは経験不足だからだろうか。

「煽んなよ」

一瞬離れた唇が、不敵に弧を描く。

そして、もう一度琴葉の唇を貪る柊はキスをしながら琴葉の頬、首筋を撫でる。
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