視線が絡んで、熱になる【完結】
寝室のドアの前で顔を赤らめていると柊が琴葉を一瞥していった。

「普段は朝食は食べないんだ。だから今うちには何もない」
「あーいえ、大丈夫です。私も普段食べません」
「そうか。でも何か必要なものがあれば言ってくれ。用意しておく」
そういうと、彼はまたiPad画面を指でスクロールし始める。
(…用意しておく?どういうこと?)

今日柊の家を出たらもう彼の家に来ることはないと思っていた。だからこそ、柊のその発言には違和感がある。昨日のキスのことなど全く気にも留めていないようだし、本気で彼の考えていることがわからない。
わかるのは…―
昨日のキスのせいで琴葉の心は大きく乱れているということだった。

「じゃあ、準備します」
「コーヒーはいるか?」
「いえ、大丈夫です」

琴葉はそう言って、逃げるように洗面所へ駆け込み、着替えをした。
顔を洗って、フワフワのフェイスタオルで顔を拭いた。当たり前のようにいつの間にか置かれている琴葉の歯ブラシに何だかくすぐったい気分だった。
…他の女性にも同じようなこと、してるのかな。

どうしてそんなことを思ってしまうのかはわからない。でも、自然と女性の影を探している自分にため息が出る。
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