視線が絡んで、熱になる【完結】
柊が現在までどのような人生を歩んできたのか、どのような恋をしてきたのか、彼は何が好きで、何が嫌いのか…琴葉はまだ何も知らない。

「よーし、じゃあ打ち合わせ行こうか」
「はい」

仕事中に他のことを考えてしまうとは、まだ自分に余裕があるというころだろう。涼に声を掛けられて元気よく頷くとノートパソコンと筆記用具をもってフロアを出る。
今日は朝から企画部と打ち合わせが入っている。
おそらく午前はこれで時間が潰れるだろう。午後からは理道とは別の案件が入っている。

正直なところ、理道だけで精一杯なのだが何件も案件を掛け持っているのが“普通”なのだからこんなところで弱音を吐くわけにはいかない。
長い廊下を踵を鳴らして歩く。隣を歩く涼は間を作らないようにしているわけではないのに、どんどん言葉が出てくるようでコミュニケーション能力の高さに脱帽する。

「あ。そうだ、再来週の火曜日…申し訳ないんだけどフレックスで10時とか11時出社にしてくれる?」
「どうしてですか?」
「別に通常通り出社してもいいんだけど…実は夜の21時から新宿駅のビルの広告制作の付き添いがあるんだよね…」
「に、21時?!」
「そう。結構こういうのあるよ。新しくそのビルにアパレル企業が入るんだけど…それの広告。制作部だけでいいんだけどさぁ、クライアントと制作の間に俺ら営業入ってるわけじゃん。いかないわけにはいかないよね」
「…そうですね」
「結構帰宅遅くなるだろうから、出社時間ずらした方がいいよ」
「わかりました。じゃあ、11時くらいに」

会議室のドアを開けると既に数人の男女がそれぞれのノートパソコンを開いて準備していた。
< 70 / 190 >

この作品をシェア

pagetop