視線が絡んで、熱になる【完結】
「理道の件はメールした通りです。次回までにある程度企画案を提示したいなと思っていて」
「そうですねぇ、今回の新ブランドの件ですが…価格設定的に年齢層は高めなんですよね」
「ええ、理道の担当者は30代以降と言っていました。ただし性別や年齢に囚われないブランドを意識しているとのことです」
武藤が唸ってキーボードから手を離した。おっとりした雰囲気から一変して急にぴりつく雰囲気を纏う。
「商品コンセプトを見たんですが…ちょっと抽象的だなぁ。特にニーズです。ここがふわっとしているとこっちとしてもやりにくいんですよね。あと技術面ですね、新ブランドと言っても、他社と差別化できないといけないと思うんですよね。その辺ってどうなってますかね?」
琴葉はメモを取りながらなるほど、と心の中で頷いた。クライアントに対して商品の口出しをするのではなく、あくまでもクライアントの意向を汲み取って広告を作っていく必要がある。
しかし、意向を汲み取るということが意外にも難しいことを知った。本当に自分は理道の意向を汲み取ることが出来ているのだろうか。
一時間半の打ち合わせはあまりにも情報量が多く終わる頃には一日分の体力を消費した気分だった。
「…あぁ、疲れたね」
「そうですね。すみません役に立たなくて」
「営業初めてなのにいきなり俺よりも仕事してたら驚くって」
涼は得意の爽やかな笑みを琴葉に向ける。
それでも強張る顔がほぐれることはない。
結局、企画の方には予算やどういった媒体で広告を打ち出していくのが効果的か、市場動向調査をお願いした。
また企画部の意向もあり制作部との打ち合わせも入れていくことになった。
午後からはまた別の打ち合わせがあり、気づくと既に19時を過ぎていた。