視線が絡んで、熱になる【完結】
一週間が過ぎた。
流石にほぼ毎日、柊が近くに座ってくることに疑問を持たない彼女が鈍感を通り越して人間としてのあるべき感覚がないような気がして心配した。
この日は、あえて彼女の目の前に座った。
傍から見ると、付き合っていると思われるだろう。しかしそんなことはどうだってよかった。

それでも彼女はこちらを見ようともしない。
(俺のこと、見えてないのかよ)
そう思ってしまうほど、彼女は柊には興味がない、いや、自分以外の人には興味がないようだった。
どうしても会話をしてみたくなった柊は、わざと消しゴムを彼女側に転がした。

「…あれ、」
「すみません、それ、俺のです」

コロコロと転がっていくそれは彼女のノートの前で止まった。
彼女が顔を上げた。
初めて目が合った。彼女は想像していた以上にかわいらしい顔をしていて、分厚い丸眼鏡の奥に覗く驚きに満ちた瞳が柊のそれと絡む。
意外に高くて可愛い声をしていた。

「…これ、あなたのですか?」

(そりゃそうだろ、しかも今俺そう言った)

と、思ったが顔色一つ変えずにそれを受け取った。

「ありがとう」
「いえ」

しかし、そういうと彼女はまた顔をノートへ向けて勉強を始めた。
明らかにこの広い図書館で、個人スペースも開いているし他の机もガラガラなのに彼女の前に座る自分をおかしいと思わないのか不思議でしょうがなかった。



一向に琴葉の視線の先には柊はいないようで、でもこの時間が楽しみになりつつあった。
彼女が変わったのは、これからさらに数週間が経過してからだ。
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