視線が絡んで、熱になる【完結】
♢♢♢

柊に仕事があるから先に店に行っててくれ、と言われ琴葉と涼は会社近くの居酒屋を探していた。
定時ではないが19時に仕事を終えてモヤモヤした感情を携えたまま歩道を歩く。
せっかくの金曜日、もう少し軽やかに歩きたい。

「ここは?お洒落だし、てんぷらが美味しいらしいよ。マネージャーのおごりだろうから多少高くてもいいでしょ!」

と涼が言うので、琴葉は彼に続いてその店に入る。
予約をしていなかったが、席へ通された。

「もう一人来るので」

と涼が店員に伝えたため奥の個室へ通される。六人ほどは入れる個室に二人向かい合うようにして座った。

「とりあえず、生ビールでいいかな?琴葉ちゃん飲めるんだっけ?」
「強くはないですが飲めます」
「了解」

すぐに涼が最初の乾杯用に生ビールを頼んだ。
予約しないで入れたが、個室へ案内される間辺りを見渡したがどの席も埋まっていた。人気店なのかもしれない。
女性店員は浴衣のような恰好をしていて、メニュー表を見ても和食が多いイメージだからそういうコンセプトなのかもしれない。
お通しと生ビールが運ばれる。二人で先に乾杯をして一気にそれを喉に流し込んだ。
ビールグラスを片手に顔を上げる涼と目が合った。
そして、彼が言った。

「琴葉ちゃん、マネージャーのこと好きでしょ」
「……」

存在しないのにえくぼが出来そうな勢いで口角を上げる涼に呆然と口を開ける。

数秒の間があった。
どうしてそれを知っているのだろう。彼が実はエスパーで人の心を読めるのではと思ったがありえない。そんな非現実的なことを考えてしまうほど琴葉は焦っていた。
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