視線が絡んで、熱になる【完結】
困ったように眉を八の字にして、控え目に視線をウロウロさせていると、柊が急に覆いかぶさってくる。

「ひぃっ…」
「だからそんな情けない声だすな」

柊がベッドに肘をつき琴葉とキスしてしまいそうな距離でそう言った。

「い、息が出来ないので…離れてください」
「嫌だ。今日はイライラしてんだよ。でも、お前が…いや、琴葉次第でそれが解消する」
「…へ?」
「琴葉が嫌でなければ、お前を抱きたい」

心臓が止まったと思った。だって、呼吸も瞬きも何もかもが一瞬止まってしまったから。
見えている景色もすべて、だ。
抱きたいなど今までの人生で言われたことはなかった。春樹との恋だって、そうだった。
春樹に抱かれた以上に緊張していた。
無音の部屋で琴葉は「抱いてほしい」といった。想像以上に声が震えていたのは、緊張と煩い心音のせいだ。

微かに柊が笑った。
「っ…」
その顔が好きだった。いつもは仏頂面で感情の読めない彼が不意に見せる笑顔が好きだった。胸の奥がきゅんっとなる。

「あぁ、そうだ。私経験がかなり少なくて…というか一度しかなくて。ええっと…その、経験値的に…ご満足させられないかと…」

自分でも訳の分からないことを発していることは理解している。それでも、二度と男などいらないと思っていたのに既に抱かれようとしてるこの状況で冷静になどなれないのだ。

柊の手が、そっと琴葉の頬に触れた。自然に口を噤む。

「経験値とか知らないしどうだっていい。それよりもお前が欲しいんだ。いいか、琴葉を抱くのは俺だ。過去の男でも誰でもない。だから…―」

―ちゃんと、俺を見ろ

何も言わずに、琴葉は頷いた。
琴葉も同様に柊が欲しかった。これは本能で彼を求めてしまっているのだろうか。どうしてこんなにも惹かれるのかはわからない。でも、今この瞬間、何もかも忘れるほどに強く抱いてほしかった。





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