エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
 彼の車は置いていった私の車のそばにあり、ボディガードがふたりうろついている。

 朝からハーキム氏にわずらわされるのかと思うと、重いため息が漏れる。

「どうする?」

 ミランダはエンジンを切って尋ねる。

「うーん……ここにいるわけにもいかないから、行くわ」

 エンジンを切った瞬時、車内の気温が上がってくる。

「わかったわ。行きましょう」

 私は能面のように無表情を作って車から降りた。

 従業員専用入口へ向かう私の前に、ハーキム氏が車から降りて立ち塞がる。

「おはよう。今日も美しい。出勤などやめて、クルーザーで海へ出よう」

「ハーキム様、ここは従業員のパーキングです。車をどかしてください」

 私たちは立ち止まらざるを得なく、ハーキム氏を見ないまま頼む。

「マカナをつかまえるにはこうしなければならないんだ」

『つかまえる』の言葉に背筋がゾクリとする。

「何度も言うように、私には仕事があります。お引き取りください」

 頭を下げてハーキム氏の横を通り過ぎようとしたとき、腕をガシッと強い力で掴(つか)まれた。

 度が過ぎる彼の行為に体が硬直する。しかしここで怯んではハーキム氏の思い通りになってしまう。

 掴まれた腕をたどり、ハーキム氏へ視線を向けた。

「付き合ってくれてもいいだろう?」

「……ハーキム様、なぜ私のようなものを誘うのですか?」

「私は髪の長い日本人女性が好きでね」

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