エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
 ハーキム氏が数歩後退した私ににじり寄ったその瞬間、ヘッドライトのまぶしさに目を瞬かせる。続いてバタンと車の開閉音が聞こえた。父が帰ってきてしまった。

 音のした方へ顔を向けた私は目を見張った。

 こちらへ近づいてくるのは父ではなく、体にフィットしたスーツを着こなした若い東洋人の男性だった。彼の後ろに止まっている車は白の高級セダンで父の専用車だ。

 ということは、彼は父が話していたお客様?

 鋭い視線を私たちに向けたまま、颯爽と近づいてくる彼は驚くほど整った顔立ちをしていた。

「こんなところでなにをしている?」

 日本語で問いかけられ、瞬時私は躊躇する間もなく行動を起こした。

「待っていたのよ! 会いたかったわ」

 ハーキム氏にわかるように英語で言うと、突如その日本人と思しき男性に抱きついた。この恐ろしく美麗な人は、無礼な私の奇行にまったく驚かず私の腰に腕を回した。

 どうやら彼は私の調子に合わせてくれるみたいだ。

 長身の男性から体を離して、ハーキム氏へ向き直る。

「婚約者が日本から来ました。どうぞお引き取りください」

 ハーキム氏はムッとした様子で、口ひげから覗(のぞ)く口をへの字に曲げ、白いカンドゥーラをひるがえしてSUV車へ戻っていく。

 車に乗り込んだ彼らにホッと安堵して、おもわず「はぁ」と声を漏らした。

「熱烈な求婚者か?」

 おもしろがるような声が降ってきた。
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