エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「助けていただきありがとうございました。それと、急にあんなことをしてすみません」

 お辞儀をして顔を上げると、彼はなにも言わずにソファの端に腰を下ろした。

 真摯にお礼とお詫びを伝えたつもりだったのに、無視?

 私が今まで会った仕事関係の男性の誰よりも違って接しづらく感じる。

「ただいまメイドがお茶を運んできますので、お待ちください」

 そっけなく告げ、キッチンへ向かう。落ち着き払ったように見せかけているが、内心心臓がバクバク暴れていた。

 その原因は、危うくハーキム氏に連れ去られそうだったから? それとも突然現れた月城さんのせい? まさか。

 否定するように首を横に振って、キッチンの入口にあるチェストにバッグを置く。

「おかえりなさいませ」

 三十代のメイドがふたりいて、彼女たちはそれぞれ料理する手を止める。カマラとサナーという。

「ただいま。お客様がリビングにいるので、お茶とおしぼりを運んでください。あ、父の分もお願いします」

「はい。ただいま」

 カマラが父のためにストックしている冷たい緑茶を冷蔵庫から出してグラスに注ぎ、冷やしていたおしぼりをトレイに置いてキッチンを出た。

 その間に手を洗って、料理の進み具合を確認し、サラダのドレッシングを三種類作り始める。

 戻ってきたカマラが、ライスコロッケの衣の用意をしていたサナーに興奮気味に近づく。
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