エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「ハーキム氏は王族の親戚なの。第八王子の妻の弟で、ホテルの総支配人でさえ物申せない人よ。だからお父さんを巻き込みたくなくて」

 月城さんは父に食べるようにと言われた手前、料理を口に運んでいる。でも、まったく我関せずと言ったふうではなく、黙ってはいるけれど、時折鋭い視線を私に向けてくる。

「王族の親戚か……厄介だな」

「日本に婚約者がいると偽って断り続けていたの。今日はたまたま月城さんが現れて、つい婚約者だと……」

 父は月城さんへ顔を向ける。

「月城くん、すまなかったね。君のおかげで助かったよ。これでハーキム氏があきらめてくれるだろう」

「だといいですね」

 サラッと同意する月城さんは父に笑みを浮かべた。

「真佳奈、これからはひとりで抱え込まずにちゃんと話してほしい」

「はい。わかりました」

 これでハーキム氏にわずらわされないで済むと思うと、気持ちが軽い。

「月城さん、本当にありがとうございました」

 もう一度お礼を口にし、キッチンの様子を確認しに席を立った。

 キッチンではカマラとサナーがアラビア語で弾丸のように話をしている。私がアーチ形の戸口に立ったのにも気づかない。

「あの人、独身かしら? 何歳に見える?」

「んー。日本人は若く見えるから、プラスして三十代前半? 指輪はなかったわよ。私、チェックしたもの」

「二週間滞在するのよね? 毎日が楽しくなっちゃうわ」
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