エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
 声のした方へ顔を向けると、月城さんが五メートルほどのところにあるベッド式のソファに上体を起こした状態で座っていた。

 小さなテーブルの上には缶ビールが置いてある。

 ここドバイはイスラム圏だが、アルコールは問題なく飲めるのだ。

 父が飲まないため、月城さんは夕食ではお酒を断ったと聞いている。なので、部屋の冷蔵庫に各種のアルコール飲料をストックしておいた。

 彼もバスタイムを終わらせたようで、スーツからTシャツと綿の緩めのズボンに着替えていた。
 上下とも黒で闇夜になじんでいたのか、不覚にも気づかなかった。

 サテンのタンクトップの下はノーブラなので、一瞬体をこわばらせる。

 室内からだけの明かりで察知されませんようにと、ペットボトルを持った手を胸の前に移動させた。

「こ、こんばんは」

 ここのテラスは続いていて、月城さんの部屋は並びだった。父の部屋は反対側。
「クッ」

 月城さんはおかしそうに喉の奥で笑うと、優雅な所作で立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。
 距離を縮められてびっくりするが、その場に留まった。

「いつもその格好でテラスに?」

「は、はい。暑いですから」

「ストーカーされていたのに危機感がないんじゃないか?」

 月城さんは口もとをゆがめ、私にあきれている様子。

 危機感……?

「ちゃんとありました。帰宅するまでずっと神経を張り巡らしていたんですよ?」
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