エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「はい……お願いします」

 そこでサナーとカマラが朝食を運んできて、話は一時中断となった。

 食事をしていても、ハーキム氏への怒りが込み上げてくる。

 なんて男なのっ!

 そこで、昨晩の夕食時の会話を思い出す。

 私たちの話は婚約者に対するものではなかった。アレルギーがあったらとか、滞在に関して話していた。

 もしあの会話を録音されて日本語に訳されていたとしたら、月城さんが婚約者ではないと知られる……。

 思わずため息を漏らす。

「真佳奈、今はなにも考えずに食事をしなさい」

 父はこわばった顔を向けてくる。そんな表情になるのは、私が心配なのだろう。

 重苦しい雰囲気が漂う中、食事を終わらせて月城さんが私の部屋へやって来た。

 彼はグレーのスーツのジャケットを脱ぎ、無造作にソファの上に放り、ありとあらゆる場所を探し始めた。

 その動作に心臓がドクッと跳ねた。

 男性がジャケットを脱ぐところなんて父以外に間近で見たことがないから、動揺しただけ。

 しかし揺れるネクタイを邪魔そうに肩にかける姿も、私の鼓動を暴れされる。

 気持ちを落ち着けなきゃ。

 彼が室内を動き回るのをただ黙って見ていた。

 万が一、ここにも盗聴器がつけられていたらと考えるとなにも言えない。

 昨晩、私を抱き上げてベッドに連れ込むシチュエーションをしても会話が筒抜けだったらあれは意味がなかったことになる。
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