エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「は? 俺とお前だ。今日、十八時半から十九時ってところか? 送迎を買って出たのに、俺は誰と食事をするんだよ。そんなことだからヤツの策略にハマるんだ」

 もうっ、いちいち癪(しゃく)に障る。

「そろそろ行くぞ」

 腕時計で時間を確かめた月城さんは、ソファの上のジャケットを掴むと部屋を出た。


 自信を持って公言した通り、月城さんの運転はこの国にずっと住んでいたみたいに上手だった。

 もしや車にも盗聴器が仕掛けられているかもと思い、乗り込んでから十分間ほど無言を貫く。

「音楽を流せよ。いや、ラジオでもいい。音量は大きめで」

「え? あ、はい」

 タッチパネルでラジオを設定し、車内で大きすぎると思われるほどの音量にする。

 赤信号で車を止めた月城さんがふいに顔を寄せた。あまりにも顔が近くて、私の心臓がドクッと跳ねる。

「これなら話をしていても聞き取れないだろう」

「そ、そうですね」

 月城さんは私から顔を離して軽くアクセルを踏んだ。そして前を見すえたまま、真剣な声色で忠告する。

「とにかく周りに気をつけろよ」

「盗聴器はともかく、昨日であきらめたと思うんです」

「あの目はあきらめた目じゃなかった」

「えっ?」

 前を見ていた私はギョッとなって、運転席の彼へ顔を向ける。私のあぜんとした様子を、月城さんはちらりと見やる。

「とりあえず、なにかされそうになったら大声をあげるんだ」
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