エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
 魅力的な笑みを浮かべた月城さんが、ふいに真紅のバラの花束を差し出した。昨晩のハーキム氏のバラとほぼ同じように見える。

 わざとやってるの……?

「受け取ってくれないのか?」

 陽気なフロントスタッフから口笛やはやし立てる声が聞こえてくる。端にいた私はカウンターから出て彼の前に立つ。

「……びっくりしました。ありがとうございます」

 花束を受け取った瞬時、周りからパチパチと拍手が送られた。

「マカナ! 彼を紹介して」

 私から一番遠い端にいたミランダが、いつの間にか隣に来ている。

 月城さんから〝大げさに紹介しろ〟と言われたのを思い出した。

「フィアンセの月城――」

 そういえば下の名前を知らなかった。彼に助けを求めるように仰ぎ見る。

「あなたがミズ・ミランダ? 真佳奈から聞いています。フィアンセの尚哉・月城です」

 月城さんは流暢な英語で自己紹介をする。

 機転をきかせることに慣れているのだろう。彼の頭の回転に舌を巻く。

「ミランダ・アンドリュースです。マカナ、素敵な人ね。ハンサムだわ。驚いちゃった」

 ミランダにもハーキム氏についている嘘がバレないように婚約者がいると伝えていたから、すんなり信じている様子だ。

「真佳奈、レストランの予約は?」

 周りにわかるように月城さんはわざと英語で話しているみたいだ。

「あ、三十分後にオーシャンズを」
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