エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「OK。仕事はもう終わりだろう? 着替えてきて」

 魅力的な笑顔を作る彼に、私もわざとらしくにっこりする。

「はい。着替えてきますね」

 花束を抱えてバラの花びらに顔を近づけながら、月城さんへ背を向けた。

「真佳奈」

 肘を掴まれて振り向かされる。

「花は俺が持とう。急がないで行ってきて」

 麗しい笑みを浮かべ、周りに聞かせるためにすべて英語なのに、私の心臓はドクンと高鳴る。

 ハーキム氏の依頼した誰かが見ているといいのに。

 そんなことを考えていると、もっと引き寄せられて顔がグッと近づけられた。

 えっ?

 月城さんの唇が頬に触れて離れる。ぼうっと呆けているうちに、私の持っていた花束を引き取られた。


 テーブルの横一面の巨大な水槽では、サメや色とりどりの魚たちが優雅に泳ぐ姿が見られるが、月城さんはそちらよりも私を見つめている。

 まるで本当の婚約者みたいに愛しているオーラが出ている演技は俳優になれそうだ。

 スマートにオーダーを済ませた月城さんは、ノンアルコールのシャンパンが運ばれてくると、ポケットから小さな箱を出した。

「君に素敵な指輪を贈りたいと思っていたから、こっちで選んだよ」

 彼は箱を開けてダイヤモンドのエンゲージリングを指先で取り出し、持っていない手を私に向かって差し出す。

「月――」

「尚哉だ」

 小声で窘める月城さんは早く手を出せと言いたげだ。
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