エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「マカナさんありがとうございました。こんな素敵なところでお仕事ができるなんて素敵ですね」

 女性は私の胸のネームプレートを再度見て、微笑みを浮かべる。

「またなにかありましたら、いつでもお声をかけてください」

 新婚のカップルが仲よく去っていくのを見ながら、うらやましく思ってしまった。

 ふたりは私よりも若そうだった。

 私も、相思相愛での結婚願望はあるけれど、今はまだ好きな人すらいない。

 あと二時間ほどすれば、本日滞在する観光客やビジネスマンのチェックインで忙しくなる。

 掃除が終わっている部屋を顧客予約のオーダーとともに確認しようとしたとき、カウンター越しに白い民族衣装姿の男性が立った。

「マカナ、今日もかわいい。いつになったら私とデートしてくれる?」

 彼は流暢な英語で声をかけてくる。

 身にまとうゆったりとした白いカンドゥーラに頭には白い布、グトゥラ。黒い輪っかのアガル。口周りと顎にひげをたくわえた男性はアフマド・ワキール・ハーキム氏。

 彼は私の悩みの種だった。二カ月ほど前に友人のパーティーで初めて会ってから毎日のように現れて、私にプロポーズしてくるのだ。

「ハーキム様、仕事中ですので」

 無表情で断り、端末画面へ視線を向ける。

「仕事なんて辞めて私と出かけよう。素敵な場所へ連れていってあげるよ」

「申し訳ありませんが、辞める気はありません」
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