エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「私が辞めさせることもできるんだよ?」

「ご勘弁ください。私には日本に婚約者がいますので、ハーキム様のプロポーズはお受けできません」

 内心では苛立っている私がこんなにも丁寧に話すのは、彼はこの国の王族の親戚だからだ。

 しかもハーキム氏にはふたりの妻がいる。アラブ首長国連邦は一夫多妻制のため、彼は私を第三夫人にしようとしていた。

 毎日のように私の仕事が終わるのを待つ彼だけど、今日はとくに早い。会社役員という役職を持っているハーキム氏だが、それは名目上でほとんど仕事をしていないのはあきらかだ。

 ハーキム氏をあきらめさせるために架空の婚約者がいる話をしているが、彼は気にも留めていない様子だった。

 彼との会話はいつも堂々巡りで、拒絶反応からか毎度のごとく鈍痛がしてきた。

「マカナ、婚約者に会わせてもらわない限り君をあきらめるなんてできない。こんなにも愛している。私の妻になれば毎日贅沢に遊んで暮らせるんだ」

 この二カ月間、こんな会話しかしていないのに、どうして愛しているんだなんて言えるの?

 込み上げてくる腹立たしさをのみ込み、静かに口を開いた。

「彼は日本にいるんです。それに贅沢にも興味はないですし、働くのが楽しいので」

 誰か助けて……。

 そう思っても、ハーキム氏に強く物申せる者がここにはいない。
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